交渉の下にあるものを学べる映画
交渉もいろいろありますが、相手に商品を買ってもらうためのものは、セールスといったりしますね。
この映画は、その中でも、相手にとって不都合な事実を認めてもらうということの一つの基本形を知るのにいい作品です。
説得は相手のYesをどんどん獲得していくこと
相手にYesといわせるということは、契約が結ばれたのと同じで、Yesと言ってしまった側は基本それは否定できません。
心理的な杭を打つともいわれ、そこからは引き返すことができないようにする術ともいえます。
あたりまえのような事実から次々と同意を取り付けることにより、最後のYesを相手から引き出します。
相手にYesといってもらうのは、Noといえないことを相手に対して言うこと、ともいえます。
では相手がNOと言えないことというのはどんなことでしょうか?
大まかにいうと、次の4つがあります。
- 客観的事実
- 相手が言ったことの言い直し
- 相手が同意したロジックに基づいたこと
- 一般常識
すでに発生した事実。
そしてこれには、相手がYesと言ったという事実ももちろん含まれます。
劇中では・・・
フロスト:「でも、2月の段階で、あなたの個人弁護士が21万9千ドルを盗聴者に支払っている」
客観的事実の確認=ニクソンはYesしかない。
相手が言ったことの確認については、相手は基本Yesといいます。
あなた:「おっしゃったのは、○○○ということですね?」
相手:「はいそうです」
もしくは
相手:「いいえ、そういう意味ではありません。こういう意味です」
Noを言ったとしても、相手は逆に何がYesであるかを、社会人の会話として答える義務があります。
その発言に対しての事実はYesしかありません。
劇中では・・・
フロスト:「3月21日まで何も知らなかったとこれまでずっと言っていますよね?」
客観的事実の確認=ニクソンはYesしかない。
フロスト:「(ニクソンに)あなたのおっしゃっているのは、特殊な状況下において、大統領は国家の利益のために、法律を犯すことができるということですか?」
客観的事実の確認=ニクソンは納得いかないので言い直す。
ニクソン:「そうじゃない!私が言っているのは、大統領が行なえば、その行為は非合法ではないということだ!」
言い直したことでこれは否定できない事実となる。
例えば、
あなた:「顧客、儲け、従業員、なにがもっともかつ絶えず優先されるべきことでしょうか?」
相手:「私はお客様を常に優先します」
ということが明確化できれば、
あなた:「この場合は儲けを犠牲にしてもお客様を優先するということでよいのですよね?」
といわれればYesというほかはありません。
※あの時とは状況が違うという言い逃れも、こういった追い込みをかけるとありますが、それはまた別の場所で。
劇中では・・・
ちょっとパッと見つけられませんでした。(あるかもしれません)
例えば、
あなた:「法律は破ってはいけませんよね?」
「はい」
ただし、これは人によってばらつきがあるため、誰もが抵抗できないような常識でも、
果たしてそうなのか吟味しておく必要があります。
劇中では・・・
フロスト:「空港の電話ボックスの上に名前なしでお金が置かれて、その人は手袋をつけていたけど、これは通常の弁護士報酬の支払い方ではないですよね」
事実の確認&一般常識
これに対して、Yesといえないので、ニクソンはこの質問にYes/Noでは回答をせず、話をすり替えています。
ニクソン:「この話はすでに公式見解を述べている。これにかかわったのは、アーリックマン氏とハルドマン氏だ。私は何も知らないと言っている。あなたはあなたの結論があるのならそれで結構!次の話に行きたまえ!」
人は確信をつかれると逃げる
- 大声で制する
- 話をそらす
- 話を打ち切る
- その場から離れる
- あの時と状況が違うという(自分の言った事実を否定する)
劇中では・・・
フロストがウォーターゲート事件の話をし始めた際、
ニクソン:「そこでこの話はやめたまえ!」
フロスト:「空港の電話ボックスの上に名前なしでお金が置かれて、その人は手袋をつけていたけど、これは通常の弁護士報酬の支払い方ではないですよね」
ニクソン:「この話はすでに公式見解を述べている。これにかかわったのは、アーリックマン氏とハルドマン氏だ。私は何も知らないと言っている。あなたはあなたの結論があるのならそれで結構!次の話に行きたまえ!」
この2つは冷静に、いま離れたところに戻すように、場合によってはしつこく促すしかありません。
前者の場合、フロストはインタビューをそのまま続けています。
後者では、「ちょっと待ってくださいよ!」と相手を制し、かつ相手より大きく強い語気で「アーリックマン氏は・・・」とインタビューを続けます。一言目だけですぐに冷静なトーンでインタビューを続けています。
ニクソンが追いつめられて、言葉に詰まり弁解を始めようとしたあたりで、彼の側近がインタビューの録画に割って入ってきます。邪魔が入らないことや、相手に逃げられないような場所であることも交渉にとっては重要ですね。あるいは待ち続け、戻ってくるように連絡し続けるしかありませんね。
あの時はああいったけど、あれはこういう状況(条件)だったからで、今回は異なるから違う!っていうやつですね。
この場合、懇切丁寧に相手の説明をきちんと聞いていき、論理の矛盾が出てくるのを待つしかないですよね。
沢山そのロジックの違いについての情報を聞き出すことがまず一歩である場合が多いです。
いったことではなくやったことの否定ですが、
劇中では・・・
フロスト:「アーリックマン氏とハルドマン氏に真の責任があり、そしてのちにあなたがそれを知った時、なぜ警察を呼んで逮捕しなかったのか?それは別の隠ぺい事件にはならないのか?」
ニクソン:「おれはそうするべきだった。連邦警察をオフィスに呼び出して、指紋を採取して、放り込んでおけというべきだった。」という言い訳(説明?)が始まります。。。
YesSet(イエスセット)
人間はイエス、イエス、と言っていると、相手に対する心理的な壁が低くなり、次のものを自動的にイエスと受け入れてしまうという特徴を持っています。
また、自分の発言したことを、論理的にし、自分の行動との間にも整合性をきちんと取ろうとする生き物です。これが一致しないと認知的不協和といって、不快な落ち着かない気持ちが湧いてくるので、これを避けるために、自分の解釈を捻じ曲げてまで、整合性を取ろうとします。
そういった点からも相手がYesという質問をすることは極めて交渉上重要なのです。
フロストはこのインタビューを取るためにニクソンに60万ドルを支払ったが、当時スポンサーは不在で、かつ彼はこの仕事の間に失業していたことから、このインタビューでニクソンのウオーターゲート事件の謝罪を獲得することに人生がかかっていた。同様にニクソンも政界に復帰する機会をうかがっていて、このインタビューにチャンスをかけていた。そういう意味で追い込まれた二人の激突を見ることができる。
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